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Q. 本日は股関節の疾患についてお伺いします。まず、疾患の代表的なものとその原因について教えてください。

A. 代表的な疾患は、よく知られる変形性股関節症です。なかでも日本人には亜脱臼性股関節症(あだっきゅうせいこかんせつしょう:股関節が外れかけた状態)が多いです。臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)ともいいますが、こういう方はもともと大腿骨の骨頭を覆っている臼蓋という部分が華奢なんです。顎でもがっちりした方と細い方がいるのと同じですね。通常より少ない面積で体重を支えるわけですから、そこへ受ける応力が強くなって骨頭が正常な位置からズレていきます。そうするとさらに応力が強くなり、軟骨がすり減って変形性股関節症へ至るというケースです。いろいろな病院へ出張に行きますと、病棟に一人くらいは「股関節が痛いんです」という看護師さんがいて、診察してみると亜脱性股関節症を持っていることが多いですし、身近な疾患でもありますね。

 

Q. では、変形性股関節症について伺います。治療法は段階に応じて変わるものなのでしょうか?

A. はい。その段階としては、初期、進行期、末期と大きく分かれます。初期は軟骨がすり減って関節面の隙間が狭くなっている状態。負荷の集中するところが骨硬化し、レントゲンでは白く写ります。進行期は軟骨が一部消滅してしまっている状態、末期は広い範囲で軟骨が消滅あるいは全くなくなってしまっている状態です。

初期ですと保存療法ですね。1ヵ月から3ヵ月程度かけて、炎症や痛みを取って運動などで筋力をつけ直せば、改善するケースが結構多いです。そのあとも心配な方には、3ヵ月に1回とか来院していただいて、良い状態が維持できているかどうかを確認するということもしています。実はこれがなかなか良いんですよ。病院へ行くと思えば筋力を落とさないようにしようと患者さん自身が意識されますから。体力があって不安感がない方は、こちらが指導した運動とか生活のコントロールをしていただければ良い状態を維持できます。ポイントとしては無理しないこと。ちょっと無理したなと思われたら次の日は休むとか、炎症が長引かないようにしていただくことです。そうすると悪くなるのを遅らせることができて、結果的に手術を回避できることにつながります。ただ、もし仕事が原因で股関節が傷んだという場合は、仕事量を減らしつつ薬を使ってコントロールし、筋力を回復して、という段階を踏まないと、そのままで直すのは難しいでしょう。特に、常時股関節に負担がかかるようなお仕事の場合、周囲ともよくご相談していただく必要があると思います。

 

Q. 亜脱性股関節症が多いというのは日本人独特なのですか?

A. はい。欧米はもちろんお隣の韓国と比べても、亜脱性の確率は日本人が断然多いんですよ。不思議だなと思いますが。逆に韓国では大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)の割合が高くなります。

 

Q. 大腿骨頭壊死症とは?

A. 血流が悪くなって骨がもろくなり、骨頭が陥没したりする病気です。血流が悪くなる原因ははっきりしないのですが、ステロイド剤やアルコールの過剰な摂取が誘因として考えられています。

 

 

Q. 関節といいますと関節リウマチも思い浮かびますが。

A. 確かに、かつては股関節が破壊されてしまうなど悪くなる方も多かったのですが、生物学的製剤が出てきて、そのような患者さんはずいぶん少なくなりました。

Q. なかには、それで骨切り術をあきらめる方も?

A. 年齢的に小さいお子さんがいらしたり、お仕事を長期で休めない方もいるわけですからね。本来なら股関節のあまり傷んでいない、軟骨の消滅が少ない早めの時期に手術をするほど長保ちします。でもすぐには手術が無理という場合、コントロールして人工股関節手術を行うタイミングを図るという選択をされる方もおられます。人工股関節も耐用年数が伸びましたから。もちろん安易に人工関節にするというのではなくて、どちらが良いのかどうするのが良いのか、患者さんに情報提供して相談しています。

 

Q. 人工股関節の耐用年数は具体的にはどれくらいですか?

A. 一般的には20年以上、それも股関節に負担をかける普通の生活をして、ということです。かつては人工関節を長保ちさせるために、大事に大事にとお願いしていましたが、それを考えると人工股関節はずいぶん進化しました。

 

Q. 長保ちをするようになった理由は何でしょうか?

A. 最大の要因は摩耗の量が少なくなったこと。昔は、人工股関節の摺動面(しゅうどうめん:人工股関節の骨頭ボールとその受け皿のポリエチレンライナーがこすれ合う面)が摩耗して、その摩耗粉が破骨細胞(はこつさいぼう:骨を壊す細胞)を元気にして骨溶解(こつようかい:骨を溶かすこと)を起こし、人工股関節がゆるむということがありました。それが今では摩耗しにくくなったので少なくなってきました。もし摩耗したとしても、摩耗粉の形や大きさが違っているんだと思います。私はアメリカで骨溶解の勉強をしたのですが、摩耗粉の形状によって破骨細胞への刺激の与え方が変わることがわかっていますから。ですから、最新の人工股関節ではさらにかなりの耐用年数の伸びが期待できると思います。

 

 

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